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…………………で。
七郎次が写メで撮った問題のマスコットは、
至急 オトリ班へとメールに添付されて届けられ。
パーク場内でしか入手困難という、限定ロイヤリティ品を集めたカタログ、
ネットで捜し当てたひなげしさんが、
寸法や素材への更なる詳細をチェックしたものの、
「そのものを取り寄せてる時間はありませんね。」
なんの三木財閥のネットワークを使えばと、
無言のまま身を乗り出した誰か様だったが、
「探した痕跡が残っては、
誰が絡んだ事態だか、
あとあとあっさり割れることになりましょう。」
「そうだぞ?
配送センターから超速で持って来てもらうにせよ、
個人のを貸していただくにせよ、
相手方の残党や関係者に後辿りをされては
思わぬ迷惑がかかるやもしれない。」
そこは佐伯さんにも後押ししてもらって説き伏せてから、
「とはいえ、わたしは裁縫が苦手で。」
適当でもいいですか?と、
図柄だけは完璧に模写出来たハンカチへ
ハサミを入れかかった平八の手を、
奇麗な形のお手々で触れて止めさせて、
「…………。」
俺に任せよと、眸と眸で会話し合ったひなげしさんと紅ばらさん。
見るからに携帯用、針と糸と小型のハサミと、
あとは小さめのボタンや安全ピンくらいしか揃ってはない、
一見するとコンパクトか小銭入れみたいなセットを
久蔵殿がバッグから取り出して…からの、
まあまあ手際の素晴らしかったこと。
運転中の車内で揺れてもいるし、
灯りも不十分で、ブツは超小物。
くわえて、オリジナルからしていかにもな手書きイラストなので、
周縁1ミリを残すと出る風合いが命だ…という、
ややこしい条件が付きまくりの状況下だってのに、
「あれって、
兵庫さんからのお仕込みかと思ってたら、
違うんですってね。」
「そうなんですか?」
「小さいころから、
雑巾だの鉢巻きだの、
親御に言って縫ってもらってねっていう提出物を、
自分で縫ってたのが発端だったそうですよ。」
ひなげしさんから意外な逸話を聞き、
え…?と、しんみりしかかった佐伯さんへ、
「周囲に一杯、お世話の係をなさってる大人がいたんだから、
大人であれば誰に頼んでもよかったのに、って。
小学校の三年生くらいっていう頃になって兵庫さんに言われて、
その手があったかって
ぽんって手を打ってたっておまけ付きですが。」
「えっと……。」
切れ長の冴えた目元や 寡黙に引き締まった白いほお、
謎めきの沈黙の似合う口許…と、
見るからにクールビューティな紅ばらさんもまた
昔から天然だったらしいという余談はともかく。(笑)
あっと言う間に、
カタログそのまんまの厚みや柔らかさも完全再現された、
○ヌーピーのマスコットが完成したので。
赤毛の猫目娘さんが ふふふvvとその首尾へほくそ笑み、
「この先の公会堂、使えませんかね。」
「……。」
今度こそ、任せろと言った(?)久蔵が
どこぞかへとメールを打ち始めたの、今度は制しなかった平八であり。
むしろ、傍らから画面をのぞき込み、
「えと、そうですね。
わざとらしいですが久蔵殿んチの別邸みたいに思わせて…。」
「…、…、…。(頷、頷)」
何しろ片やは黙ったまんまだけに。
それで余計に一体何の打ち合わせかなと、
話の見えない佐伯刑事がややドキドキしておれば、
「すいませんが、少しだけ時間稼ぎをしたいので。」
光り輝く効果音が聞こえて来そうなほど目映い、
天使のような笑顔でそんなお願いをされてしまう。
「あ・うん、判った。」
そうして、言われるままのコースを取って、幹線道路をゆっくりと進み、
遠回りに問題の公会堂へと辿り着けば、
「………あ。」
確かここは先月、自転車への道路交通法改正へ向けての講習も兼ねて、
地元の皆さんを集めて、建物内の会議室で寸劇をし、
庭先…というか、
細かい砂利が敷かれてあっただけの駐車スペースでは
簡単な道路を描いて走行実習をやった覚えがあった、
交通課の助っ人に駆り出されたらしい佐伯さんだったのだが。
その折は、
そうそう古めかしいということもないが新品でもない、
ちょっぴりアクセントをつけた塗りの白い外壁に、
屋根付きポーチのエントランスという、
小さな診療所みたいな外観だったはずが。
今の今、目の前に現れたのはといや、
よろい張りといい、
上の板の縁が下の板へと少し重なるよう
順々に打ち付けられた外壁板も風情のある、
周縁の犬走りの打ちっ放しもウッドデッキに囲われた、
微妙に洋風のコテージもどき、
スレート屋根の一戸建のお家へと様変わりしておいで。
広々とした前庭には手入れのいい芝生が広がり、
ゆるやかに曲線を描いて玄関までを導く部分だけが裸に空いている。
敷地を囲むのは、
公共施設によくある升目の金網フェンスだったはずなのに、
レンガ積みの垣根の上へ、ニシキギの生け垣が植えられてあり。
“もしかして誰か個人へ土地が売られちゃったのかなぁ?”
いやいや、それにしたってこうまで早く次の家が建つものか?
まさかまさか
先程のメールを受けた三木さんちの有能なスタッフ達が、
寄ってたかって、ほんの数分でこうまで作り変えたってことだろかと。
やや混乱気味の佐伯さんなのは軽くスルーし、
「ただいま、っと。」
玄関間近でさっさと車から降り立った二人のお嬢さんが、
そのままバタンとドアを閉じつつ、
「……。」
「ええ、早速 中を見なくちゃだわ。
何か小さなものが入ってるみたいですものね。」
さっき作ったばかりのそれ、
パンヤ入り すぬーぴーのマスコットが紅ばらさんからひなげしさんへ、
仰々しくもゆっくり、手から手へと渡されたのが合図だったかのように。
後方、門が開けられたままだった入り口へ、
勢いよく突っ込んで来た怪しいミニバンが1台あって。
「さぁて、一網打尽と参りますかね。」
「………♪」
「こらこら、君たち。」
奇麗な手のひらへ、いかにもな仕草で白い拳を打ちつけてたり、
ぶんっと振り切った腕の先へ、伸縮式の特殊警棒をすべり出させたり。
冗談抜きに日本でも屈指という格だろう良家のお嬢様たちが、
単なる駆け引きという意味合いじゃあなくて、
文字通りの乱戦組み手という格好での、
戦闘態勢 完璧ですという、雄々しい構えにならないでほしいんですがと。
後を追って慌てて車外へ出て来た佐伯刑事が、
早くも頭痛がしたものか、
額を押さえたのは言うまでもなかったのでありました。
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*一気に運んでしまいましたが、
こういうお話でもしっかり
乱闘シーンが入ってしまうお約束のお嬢様たちって一体…。

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